作品名・作者名 |
あらすじ |
表 紙 |
感想文 |
おすすめ度・評価 |
『セイジ』
辻内智貴 (筑摩書房) |
これは主人公の名前を題名にした「セイジ」と「竜二」の2編を収録した作品である。ともに自分だけの世界を持った、ある意味孤独に生きる人間を描いた作品で、「セイジ」の方は、悲劇に直面し、絶望の淵に立たされた少女を奇跡とも言える方法で回復に導いていく物語であり、「竜二」は尊敬しながらも恐れを抱いている兄に、自分の生き方を理解されないながらも、母の死をきっかけに何となく二人の溝が埋まっていくという内容である。ともに驚愕とやすらぎを与えてくれる作品ではあるが、リアリティという面ではかなりかけ離れた作品であったと思う。全面的な共感は得られない作品であった。
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『頭がいい人、悪い人の話し方』
樋口裕一 (PHP新書) |
これは受験小論文指導の大家である著者が、人の話し方について綴った書である。どんな話し方をすると良い印象、悪い印象を与えるか、またそういう話し方をされた時の対処の仕方、直す方法などが書かれている。しかし、この書に書かれている内容は、基本的に悪い話し方が主で、さらにここに書かれている話し方をすべて否定してしまうと、何も話せなくなってしまうのではないかと思われるような内容であった。人は性格も十人十色、話し方も同じあると思う。本当にいけない話し方もあるが、許容できる範囲はその人の個性として受け入れることも大切ではないかと思う。
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『代筆屋』
辻仁成 (海竜社) |
これは筆者が昔やっていたバイトのようなもので、ある人の代わりに手紙を書くという代筆、その中でも特に印象に残っているものを集めたものである。内容は恋愛に関するものや夫婦・家族関係の物など、多岐にわたったものであり、うまい書き方をするなという印象は受けたが、別段、感動とかそういった類のものは感じない作品であった。
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『天国で君に逢えたら』
池澤夏樹 (新潮社) |
これはプロサーファーとして活躍していた著者が、ガンにかかり余命宣告を受けてから、鬱病・パニック障害などを克服して書かれたものである。内容もガン患者を主人公したもので、非常に重たい内容であったが、何か心安らぐものを感じるものであった。現代医学では限界のあるガン治療であるが、1日でも早く完治できる治療法を見いだしてもらいたい。それと同時に著者が1日でも長くこの世に存在できることを心から祈っている。
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『天使の梯子』
村山由佳 (集英社) |
10年前の『天使の卵』の続刊である。成長したと夏姫と歩太。二人の間に色濃く残っている春妃の思い出と死。夏姫は、10年たっても癒えない心の傷跡が、8歳年下の慎一との出会いによって徐々に回復していく。前作から10年という長い月日が経過しているにもかかわらず、全く変わらない切ない村山調は、やはり読者の心に深く入り込んでくる。ただ前作の悲しい結末に比べれば、今回の作品は多少その救済が行われているので、ほっとするわけではないが、その後の安心感を得ることができる。弱々しさを感じる繊細な文章に共感できる作品であった。
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『天使の卵』
村山由佳 (集英社) |
これは今から10年前の「すばる新人賞」を受賞した作品。真っ直ぐな恋と、切ない恋の結末。純愛小説と呼ぶにふさわしい作品であろう。基本的にストーリーはオーソドックスな展開をしていくが、逆にそのオーソドックスな部分が心にダイレクトに響いてくる。読後に、何とも言えない寂寥感が漂う作品であった。
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『漢方小説』
中島たい子 (『すばる』2004年11月号) |
これは第28回すばる文学賞の受賞作である。内容は分かれた男の結婚話を聞いた時から体調を崩し、しかも原因不明。あらゆる医者に診てもらうが、なかなか改善は見られず、いきついたところが漢方治療であった。この漢方医に出会うことによって、奥深い漢方の世界に興味を持ち、ゆっくり病気を克服していくというストーリーであるが、はっきり言って読後に何も残るものはなかった。また、ラストの展開が急で、ちょっと惰性で書いてしまったのではないかと疑ってしまうところもある。何を伝えたかったのか、それをもっと明確に打ち出していく方が良かったように思う。
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『野ブタ。をプロデュース』
白岩玄 (『文藝』2004年冬号) |
これは第41回文藝賞の受賞作である。学校生活を円滑に過ごすために仮面をかぶりながら生活している修二。そこに一人のデブで醜い転校生がやってくる。そして、その転校生が人気者になるために修二がプロデュースしていくというストーリーがこの作品であるが、ここに描かれている修二という男子高校生像は、まさに誰しもが経験したことがあるであるであろう心理を見事に描いている。中学生ではなく高校生という設定がリアルに心に響いてくる。人気者をプロデュースするつもりでいながら、実は自分をプロデュースしていくはめになるある意味衝撃なラストには驚きを感じるとともに、やはりそれしかないんだなという現代人の人間関係の希薄さが浮き彫りにされている。切なさと絶望を正面から伝えていく作品であった。
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『人のセックスを笑うな』
山崎ナオコーラ (『文藝』2004年冬号) |
これは第41回文藝賞の受賞作である。美術の専門学校に通う19歳の学生(オレ)と、そこの講師である39歳の人妻ユリが恋に落ちるという、題名から考えても一見何とも言えないエロティックな想像をかき立てられてしまう雰囲気があるが、そんな内容ではない。確かにセックスのシーンは多いが、そこにオレとユリの人間なら(もしかしたら動物の方が強いかも)誰しも持っている本能的な部分と理性的な部分をうまく描いた作品と言えよう。「ふがいない」男性像と前向きな女性像を読んでいて感じた。ラストはちょっとドラマティックにし過ぎな印象を受けたが、まぁー爽やかなラストなのであろう。
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『そのときは彼によろしく』
市川拓司 (小学館) |
『いま、会いにゆきます』で話題になった市川拓司の書き下ろし第三作目である。正直前回の作品は、良い作品だとは思うがちょっと内容が浅いように感じた。しかし、今回の作品は前作に比べれば、数段内容に深みが出たように感じる。異世界的な部分は前回と似た部分があるし、また主人公の智史も前回の登場人物と性格的にかぶっているように思うが、花梨の言葉の一つ一つが前作以上に読者の心を打つ。難点をあげれば、あまりにハッピーなラストと、途中村上春樹を思わせる部分があげられるが、それを差し引いても、一つの恋の成就に賭けた二人のあまりに純粋な心は快いものであった。
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