ミツバ岳4みつばだけ) 

#259 2015/3/25(水) ミツバ岳 834m ← 世附権現山 1,019m ← 屏風岩山 1,051




サクラの蕾が綻びる頃、仄かな香りが漂い、黄色い花に彩られる山がある。山はミツバ岳、花はミツマタ。西丹沢の山行をプランするには、復路のバス時刻に依るところが大きい。午後には1500以前のバス便はない。大滝橋や細川橋のような山中で、帰りのバスを1時間も待つのは嫌だ。浅瀬入口がゴールなら、永歳橋を渡ってどこかの店でバス待ちができる。そこでちょっと辛いが、大滝橋から歩き出して浅瀬入口に到着すれば、路程11km、6時間、ほどなく1500のバスが来る。

よく晴れた日、西丹沢自然教室行きのバスを、いつものようにJR御殿場線の谷峨駅で捕まえる。ほぼ満席のバス。大滝橋で降りたのは僕ひとり。道標が畦ヶ丸を指す林道を大滝沢に沿って遡る。沢音だけが聞こえる山、静寂を破ってダンプカー2台が下りてくる。法面に身を寄せてかわす。僅かに流れ落ちる小沢に、「森林管理道、立入禁止」の立札が立っている。ここが僕の屏風岩山への登り口。花崗岩の砂礫が厚く積もって、用をなさない丸木の階段をずり落ちまいと這い上がる。

桧林から杉林へ、しっかりした森林管理道をじぐざぐを描いて上る。いつの間にか踏み跡を見失うこと二度三度、面倒とばかり立木に掴まり土を崩して遮二無二直登する。少なからず予定時間をオーバーしたのは想定外。枝尾根の背に乗れば、背中に朝陽を受け鹿柵に沿って上る。斜面に咲く満開のミツマタ。いつぞやはミツマタをくぐり抜けて上ったのに、今日見るミツマタの木は少ないようだ。振り向けば戸沢ノ頭から大杉山に続く台状の山。大きな山容の桧洞丸から同角山稜。

屏風岩山 山頂 世附権現山 山頂


この西丹沢には二つの権現山がある。紛らわしいので地名を冠して、北にある山を箒沢権現山、南を世附(よづく)権現山と呼べば分かりやすい。斜度が緩んでブナの樹林から周辺の山々を垣間見る。すぐそこに箒沢権現山と畦ヶ丸。桧林が途切れて、あれは世附権現山。あの山を越えてミツバ岳へ行くのかと思うとうんざりする。東峰から一旦下り上り返して屏風岩山。おや、山頂標識の板片や道標が見当たらない。撤去されてしまったのか。ただ赤い埋標と三角点があるだけ。

二本杉峠を目指して緩やかな主尾根を南下する。山地図には「ヤブが深く通行注意」とあるが、迷うことはない一本道。桧林にひっそりと咲くミツマタの花。掻き分けて歩いたミツマタの群生地は今はない。山は変わるものだ。二つの崩壊地から西丹沢の山々を見る。長い急斜面に差しかかる。このコースで唯一の難所。ロープに縋って赤土と根っこの斜面を降る。二本杉峠の手前にコブがある。「尾根を歩いて峠へ向かえ」というが、崩れかかった巻き道を注意して辿ったほうが楽。

ミツマタ ミツバ岳山頂から見下ろす丹沢湖


二本杉峠は桧の樹林の中。峠には二つのベンチと道標がある。直進すれば権現山、左へ下れば上ノ原登山口、越えてきた屏風岩山は「踏跡不明瞭」と記されている。右へ千歳橋への標示はない。小憩をとりたいが、西側から吹き上げてくる強風に追われるように、重い腰を上げて針葉樹林の急坂を上る。849米峰まで上ると、権現山が仰ぎ見るように見えてきた。緩やかに下れば大崩壊地から好展望が得られる。西丹沢の山々、その後方に塔ノ岳。眼下に中川温泉郷が見える。

鞍部から権現山の山頂まで標高差200mを上る。ブナの樹林を小さなじぐざぐを描いて上る。急斜面を元山ガールの一群が地響きをたてて下りてくる。傾斜が緩んで世附権現山。ベンチが二つに山頂標識がある。落葉に腰を下ろして食事中の人達。登山道は山頂から分岐する。浅瀬入口への径路には警告板、「この先踏跡不明瞭、初心者通行不向き」が立つ。ミツバ岳へは、「ミツバ岳方面の登山道は不明瞭、遭難事故多し、通行注意」との貼り紙が木の幹に括りつけられている。

菰釣山から高指山へ続く山並みを眺めながら、西へ向かってブナの尾根を歩く。左下へ降りる踏み跡がある。道標はないが、ここがミツバ岳への分岐。誰もいない山頂はミツマタの花で埋まる。芳しい香りが仄かに漂い、三つに分かれた枝の先端に淡く黄色い花が咲く。樹皮は茶色、繊維は強靱、紙幣や証券の原料に資されている。ミツマタの茂みをくぐり抜け、朝方にはよく見えていた富士山を見ようとするが雲の中。もう下山の刻。丹沢湖の青い湖面を見下ろしながら山を下る。


快晴 単独行 歩行距離=11km 歩行時間=5時間50

JR御殿場線、谷峨駅745⇒(富士急湘南バス)⇒822大滝橋
大滝橋825835登り口925枝尾根1020屏風岩山、東峰1030屏風岩山10351140二本杉峠11451235世附権現山12401320ミツバ岳13301420滝壺橋1445浅瀬入口
浅瀬入口1500⇒(富士急湘南バス)⇒1523JR御殿場線、谷峨

:一般登山道、 :難路 :バリエーションルート、 林道、 :県道