唐沢川 からさわがわ  

230 2013/3/6(水) 唐沢川




月も改まって3月。1日は春一番が吹き荒れた日。春一番とは立春から春分までの間に、日本海の低気圧に向かって吹く風速8m/sec以上の強い南風のこと。5日は暦の上では啓蟄。冬ごもりをしていた虫共がぞろぞろと這い出せば、僕も冬眠から目覚めてどれ山にでも登ろうか。山でムシできないのは、蛭、ダニ、虻。悪名高きは東丹沢の蛭と云うが、今では鹿に運ばれて丹沢全山に潜んでいるらしい。人が近づくと、興奮した蛭は尻をヒクヒクさせて待ち構えているという。怖っ。

丹沢にはいくつもの失われた登山道がある。度重なる遭難事故を防ぐため、入口にロープを渡したり標識を立てて、むやみにハイカーを侵入させないような山道がある。歳経れば踏み跡は消え、山地図からもルートは消滅する。唐沢川を遡るルートもそのひとつ。唐沢川とは、大山北尾根と三峰山に挟まれ、大山を源頭として物見沢と合流し、中津川と名を変える川のこと。ところで沢への降り口は小唐沢橋。このあたりは蛭の巣窟だというが、まだ寒いこの季節なら心配あるめえ。

本厚木駅前から宮ヶ瀬行きのバスに乗る。清川村、煤ヶ谷で降りる。快晴、無風、暖かな朝。物見峠へは道標どおりに進めばいい。バス停脇から谷太郎林道を往くこと数分、三峰山方面への道標に従って坂を上ると登山届箱と注意書がある。<ヤマビルによる吸血被害を防ぐため、ズボンの裾を靴下の中に入れ、靴や靴下に忌避剤をスプレーしてください。 ヤマビルが居た場合には、辺りに放置せずに、必ず駆除してください。駆除には備え置きの駆除剤をご利用ください。>

唐沢川 雪解け水の流れは早い 唐沢川 行く手が大岩で塞がれると
飛び石伝いに対岸へ移る


鬱蒼とした杉の森、鹿柵に入る。ここにもヤマビルの注意書きがある。<駆除に使用される塩は、少量でお願いします。> 蛭に咬みつかれても無痛、衣類に染みた血で初めて気が付くという。無理にひき剥がすと、1ヶ月も痒みが続くらしい。<この先、物見峠から黒岩の間で登山道が崩落しているために通行できません。唐沢林道による迂回が可能です。> その先に、<クマ 出没注意。この付近でツキノワグマが目撃されました。音(鈴)などを鳴らして行動してください。>

山腹を緩やかに上る杉の森からブナの森、また杉の森。三峰山への分岐、<注意 三峰山は地形が急峻で道は狭く、沢沿いや鎖場など多く経験者向きです。無理をしないで引き返す勇気が必要です。> 山腹が左手になると右手の谷間越しに仏果山や経ヶ岳が見える。物見峠に近付くと、<この先800m区間は崩壊個所が多数あります。落石や足元に十分注意して通行してください。> 前方に何かが動く。大きなカモシカ。こちらをじっと見つめた挙句、悠然と木立に消える。

物見峠のベンチでひと休み。右は辺室山、土山峠へ。左は三峰山へ。直進する黒岩方面への登山道は枝木で塞がれている。貼り紙、<札掛、黒岩方面に向かわれる方は、大山三峰方面に向かって右側の歩道から迂回してください。> 標示に従って濡れた急階段を40m降りる。そこは物見峠の真下を潜る唐沢林道の唐沢隧道出口。林道は水音高い物見沢の左岸に沿った舗装道路。凍結個所を慎重に通過する。丸淵は対岸にあるはずだが、目を凝らして探すが見つからない。

大沢分岐から弁天の森へのやせ尾根 いくつものアップダウン


小唐沢橋の手前から唐沢川に入渓する。右岸の土手から沢へ降りる。勢いよく流れ落ちる小滝。音もなく水が滑り下りるナメ滝。流れの淀みに泳ぐ小魚の群れ。絶壁や大岩が行く手を塞ぐと対岸に渡る。水の中から頭を出した飛び石伝いに渡ればいい。右岸から左岸へ、また右岸へ。何度か渡渉するうちに、突然滑って転倒。失敗った。左の尻から足先までずぶ濡れ。歩けば靴の中で水の音がする。濡れた着衣や水の入った靴は、やがて暖まって幸いにも冷たさは感じられない。

沢屋さんのように、フェルト底の靴を履き、防水ズボンにヘルメットを被っていれば安全に違いないのだが。川は二俣になる。右は水量の多い沢、左は涸れ沢。じっと地図を睨んで涸れ沢を選ぶ。これが大正解。右の沢は西沢ノ頭へ突き上げる大ノ沢のようだ。河原には一面の残雪。踏み跡は皆無。突然、右岸の崖上から落石。見上げると群れをなす4頭の雌鹿が1頭ずつ立ち止まってこちらを凝視しては移動する。三つの堰堤を越える。やっと馴染の石尊沢の出合に到着する。

唐沢峠の休憩舎に疲れ果てて辿り着く。日没時刻まではあと3時間。よせばいいのに未踏のルートに足を伸ばす。ロープで塞がれた893米峰から踏み跡を辿って大沢分岐。大小のコブは辛い。見晴し台AとB、二つの休憩舎を通過する。どうもここはファミリーハイクのエリアらしい。キャンプ場への急斜面を下る途中に陽が沈む。暗い杉の森、白く浮かびあがる林道。事業仕分で休場中の弁天の森キャンプ場を突っ切る。暗闇に点在するバンガロー。無灯の夜道を一路バス停へ。


快晴 単独行 歩行距離=156km 歩行時間=9時間25

小田急線、本厚木駅740⇒(神奈中バス)⇒815煤ガ谷
煤ガ谷8201000物見峠10101100小唐沢橋11101340大ノ沢出合13501420石尊沢出合堰堤14251435唐沢峠下東屋14401500P893→1555大沢分岐16051740林道→1745七沢弁天の森キャンプ場→1835七沢病院入口
七沢病院入口1846⇒(神奈中バス)⇒1916本厚木駅