鍋割山10 なべわりやま  

229 2013/1/8(火) 鍋割山 1,273




鍋割山への登路は数多いが、いちばん人気は後沢乗越と大倉尾根。但しどちらも長くて辛い階段上りを強いられる。比較的楽に登れるのに利用者が少ないのが小丸尾根。時間が余計に掛かるが変化に富むのは雨山峠と鍋割峠。長い鎖場や崩壊地を通過するので要注意。以上が山地図では実線で描かれ、道標も完備している一般道。ところで山地図に載らず、踏み跡がなくとも、地図を睨んで尾根や沢からルートファインディングして登るバリエーションルートが実に楽しい。

去る5日が小寒、寒の入りの日。暦の上ではあとひと月は寒さが続く、といっても今年は寒に入る前から寒さが続いている。もはや厳冬。日本海側では大雪、例年のように雪山遭難の報。悼ましいことだ。先程バスが通過した寄(やどりき)集落入口では、電光掲示板が−2℃を示していた。酒匂川の源流、中津川に沿って北へ歩き出す。快晴、冷たい空気、無風。朝日を浴びて輝く桧岳山稜、あれは12月に登った桧岳や雨山。水源の森ゲート前に着く頃には身体が暖まっている。

やどりき水源林は、水源地域にある森林の水源涵養機能を高めるため、県民が参加して森林の手入れや森林づくりを体験する場所だという。中津川もこの辺りでは名前が変わって寄沢。対岸の滝郷ノ滝を眺めて進めば、やがて道標や標示板が乱立する登山道の入口に着く。「成長の森へ山を登って左へ」「恵水の森」「雨山峠32km」「熊出没注意」「道迷い多発」等々。ここでジャケットを脱ぎ、握り飯を頬張ってひと休み。これからバリエーションルート、後沢右岸尾根を上る。

鍋割山の山頂から見るパノラマ 富士山の右奥は南アルプス 左手前は雨山、桧岳


数ある鍋割山への登路のうち、後沢右岸尾根ほど鍋割山へ最短時間かつ緩やかに上れるルートは他にない。桧の森に「周遊歩道A」と「この先作業用径路、迷いやすく危険」の道標がある。「この先作業用径路」こそが後沢右岸尾根を上るルートで、決して迷うような山道ではない。「ボランティアA」最上部の道標を過ぎるともう道標はない。ふたつ並んだ大石やベンチ前を通過する。傾斜が緩むと鹿柵扉に入って762m峰。蛭ヶ岳を垣間見て踏み跡を忠実に辿りじぐざぐ坂を上る。

後沢右岸尾根を上ると、鍋割山と栗ノ木洞を結ぶ稜線の1,000m地点に合流する。一般道と雖も辛い上り。丸木の階段が続き、霜解けのぬかるみに往生するが、木道が現れてほっとする。尾根の左、桧岳の右肩から白い頭を出した富士山は、高度を上げるにつれて全容が見えてくる。右手には落葉した樹間から丹沢表尾根や小丸、丸萱尾根を見る。林相がブナの樹林からウツギやアセビの群生に変わる。山頂直下の左斜面は好展望の草地。霞んだ愛鷹山、白く光る南アルプス。

鍋割山頂は微風だがとてつもなく寒い。ベンチに腰掛けて寄り添う一組の夫婦。ひっそりと鍋割山荘。鍋焼きうどんは値上がりして¥1,000、コーヒー¥400。軽食を摂りながら南から北へ展開する風景を眺める。ぼうと霞んだ相模湾、箱根連山。愛鷹連峰、富士山、御坂山塊、白い南アルプス。北に丹沢主脈の桧洞丸、蛭ガ岳、不動ノ峰。さて、金冷ノ頭と鍋割山を東西に結ぶ稜線が鍋割山稜。その鍋割山稜から見下ろすと白くて広い河原がある。鍋割沢。今日はあの沢に降りてみよう。

富士山を背にした鍋割山 鍋割山稜から見る 小丸北尾根から尊仏ノ土平に降る
鍋割コシバ沢と鍋割沢との合流点


鍋割山稜を歩き出す。どろんこ道を避けて路傍の草地を歩く。北に丹沢主稜の山並みを望む。蛭ヶ岳、棚沢ノ頭、不動ノ峰、丹沢山。振り向けば富士山を背に円頂の鍋割山が見える。右手に丸萱尾根への降下点を通過。鍋割沢へ延びる尾根はどこだろうか。知らない尾根は下りるなというが、無事に目指した地点に降りた嬉しさは格別なんだよ。小丸に近付く。注意深く左手を見続けると、どうやら鹿柵が始まる手前が降り口のようだ。道標はおろか踏み跡すらない小丸北尾根。

尾根の傾斜はきつい。桧の幹に掴まりながら、まるで蟹のように横向きに斜面を下る。踏み込めば落葉と表土がずるずると崩れる。突然響き渡る鋭い鳴き声。下方に4頭の雌鹿。1頭が駈け降りると残りの鹿は白い尻を見せて後を追う。枝尾根が派生する度にどちらに降りるかの選択を迫られる。二度ほど左の尾根を選ぶ。これが大正解、目的どおり鍋割沢と鍋割コシバ沢の出合いに降りる。ここは尊仏ノ土平。岩ごろの広大な涸れ沢。白い鍋割沢の源頭に塔ノ岳と大丸を見る。

意外にも岩ごろの涸れ沢は歩き易い。箒杉沢の源頭の先に丹沢山、竜ヶ馬場、日高を見る。尊仏ノ土平から玄倉林道は始まる。そこは荒れた林道。崖上からの落石や法面から剥がれ落ちた岩礫が散乱し、林道の崩壊地点は2個所も数える。地震の度に丹沢は崩壊が進むという。熊木沢の出合まで来ると落石は少なくなる。沢の源頭に蛭ヶ岳を見る。ユーシンを過ぎた辺りでは法面の補修工事中。それにしても3時間の林道歩きは長い。林道に張った氷を蹴散らして玄倉へ。


快晴 単独行 歩行距離=205km 歩行時間=7時間20

小田急線、新松田駅730⇒(富士急湘南バス)⇒800
805835やどりき水源林ゲート→850水源の森、登山口9001010鍋割山南稜、合流点→1045鍋割山11001130鍋割山稜、下降点→1300尊仏ノ土平→1405ユーシン14101450青崩隧道→1520車止ゲート→1555玄倉
玄倉1606⇒(富士急湘南バス)⇒1623JR御殿場線、谷峨駅