塔ノ岳13 とうのだけ) 

213 2012/1/27(金) 塔ノ岳 1,491




最強と云われる寒波が列島に居座り、日本海側は連日の大雪。あと2週間は続くとの気象情報。勿論、関東は晴れ、雲ひとつない青空。大倉の朝は空気がぴりりと引き締まる。予めスパッツを履いて出発。アイゼンは雪道になったら履こう。しんと静まり返った針葉樹林を上ると身体が暖まってくる。やっと大倉尾根の背に乗る雑事場平。ダウンジャケットを脱いで長袖のシャツ姿になる。暫くは平坦な山道を行く。見晴茶屋を過ぎて露岩の悪路を上る。木道が現れるとほっとする。


大倉尾根は、起点の大倉から塔ノ岳山頂まで標高差1,200m、歩行距離6km余り。かつては茅で覆われていた尾根筋も、今や土止めの丸木の階段につぐ階段、それが通称バカ尾根と呼ばれる所以である。登山道の崩壊を加速するのは、なにもオーバーユースや鹿による食害だけでもないらしい。冬に繰り返される霜柱が立っては解けて表層を崩してゆくのだそうだ。火山性の地層の表層はローム層だから、登山道や山の斜面は風化していっそう崩壊に拍車がかかるらしい。

枯草の根を食む鹿、奥に富士山、花立山荘にて 塔ノ岳を仰ぎ見る、金冷ノ頭の手前にて


辛い丸木の階段をじっと耐えて上るその先は、気持ちいい平坦な尾根道を歩くようになるし、見晴しも楽しめる。駒止茶屋上のベンチでひと休み。右手に冠雪の三ノ塔から鞍部を挟んで烏尾山、行者ヶ岳へと連なる表尾根を仰ぎ見る。標高800mを越えると、尾根道は凍てついた残雪に変わる。左手には鍋割山の稜線越しに真っ白な富士山が見える。小草平の手前の鞍部にご用心。数年前、氷結した雪道に何度も滑って転んだことを思い出す。やっと小草平、堀山の家を通過。


いつものことながら、戸沢分岐を通過する長い階段上りに辟易し、花立山荘へ上る階段には顎を出す。石が埋め込まれた歩き難い階段。花立山荘前には数人のハイカーが屯する。ベンチに腰を下してアイゼンを履く。久々にアイゼンを装着すると、履き方を忘れて戸惑うしまつ。ふと顔を上げると、目の前に見事な角をした牡鹿が鼻で枯草を掘り起こして根を食んでいる。花立は絶好の見晴台。大山、三ノ塔から続く表尾根。秦野市街、湘南の海、箱根連山。遠く愛鷹連峰、富士山。


塔ノ岳を見上げながら、よく踏まれた圧雪の尾根を上る。露岩を越えてやせ尾根を歩く。金冷ノ頭、鍋割山稜分岐を過ぎると丸木の階段は雪に埋まる。最後の急坂を上ると視界が開けて登頂、塔ノ岳。さすが好展望の山頂、頂きの雲が消えた富士山、折り重なるように聳える不動ノ峰、棚沢ノ頭、蛭ヶ岳。鋭鋒の同角ノ頭と円頂の桧洞丸の間に八ヶ岳、奥秩父の山を遠望する。微風にせよ冷たい風が吹く。数人のハイカーが風を避けて廃屋の日の出山荘の陰に集まり食事をしている。

左奥は大山、右奥の三ノ塔から続く表尾根 塔ノ岳から見る不動ノ峰、棚沢ノ頭、蛭ヶ岳


僕は耐えきれずに尊仏山荘に駆け込む。入口でアイゼンを脱ぐ。先客は二人。カップヌードル¥350を注文する。途端に生き返った心地がする。一泊二食¥6,000、お茶¥300、トイレ¥50。雪が積もれば小屋番は大助かり。水汲みに行く必要はない。飲料水はトイレ前にある吹きだまりの雪をストーブの上で溶かせばいい。ああ疲れたよと言いながら山荘に飛び込んできた御仁。雪がなければ大倉から1時間半で上るが、2時間もかかったとことなげに言う。それにしても凄い。


そう云えば往路で二人のトレイルランナーと擦れ違った。ジャージー姿に小さめのザックを背負い、スニーカーを履いて跳ぶように降りてきた。この雪道を滑らずに下るのはまさに神業。さて、下山は往路を戻る。12本爪のアイゼンはしっかり雪を掴む。雪道を快調に降って花立山荘。ここでアイゼンを脱ぐ。雪解け水の流れる階段を降り、ぬかるみと化した尾根道を下る。雑事場平は直進して大倉高原山の家に立ち寄る。この湧水が美味い。ブナ林から杉林へ。もうじき大倉に着く。


晴のち曇り 日帰り 単独行 歩行距離=135km 歩行時間=5時間40分

小田急線、渋沢駅北口716⇒(神奈川中央交通バス)⇒725大倉
大倉730805雑事場平810850駒止茶屋上855935小草平→940戸沢分岐9451010花立10301050金冷ノ頭→1110塔ノ岳11501205金冷ノ頭→1215花立12251305小草平→1355大倉高原山の家→1435大倉
大倉1452⇒(神奈川中央交通バス)⇒1608渋沢駅北口