#186 2009/11/27(金) 蕎麦粒山 1,473m ← 笙ノ岩山 1,255m
秋も深まれば、紅葉は時雨に濡れそぶれ木枯らしに散る。奥多摩に長沢背稜と呼ばれる県境の山々がある。その東端が蕎麦粒山や棒ノ折山。登り応えのある山。たまさかの小春日和の一日、蕎麦粒山に登る。蕎麦粒山の一般ルートといえば、東日原からヨコスズ尾根を上り主稜線上の水源林道を東に進めばいい。山と高原地図を眺めると、蕎麦粒山から南へ伸びる尾根がある。鳥屋戸(とやど)尾根。尾根道は点線で描かれ、取り付きは川乗橋。勿論、道標などは期待できない。
日原渓谷の紅葉は今が盛り。鍾乳洞行きの西東京バスは日原街道の崖道を縫って走る。川乗橋で下車。川苔山(かわのりやま)登山口・百尋の滝と大書された看板、それに周辺案内図がある。身支度する人、準備体操に勤しむ人、そのまま歩きだす人。僕は後者の輩。車止めゲートの脇をすり抜けて川苔川に沿って林道を歩くこと数分、私製と思しき小さな道標がある。ここが蕎麦粒山の登り口。鳥屋戸尾根へ登るという4名の男女が煙草を吸いながらストレッチに余念がない。
笙ノ岩山山頂 | 川苔山 |
杉の幹に巻かれた赤いビニールテープを目印に、石垣を越えて杉林に入る。なかなか確りした踏み跡がある。ジグザグの斜面は延々と続き、尾根筋はきつい直登。時折出くわすけもの道に戸惑う。林相は植林から自然林に変わる。まだ残る紅葉がうれしい。右に大きな山体の川苔山、左に鷹巣山を樹林から垣間見る。いつの間にかトレイルは消え、落葉と表土を崩して這い上がるような急登になる。何だか変。ふと左上を見上げると虎縞ロープがある。大分コースを外したようだ。
上るにつれて山の秋は終わる。葉を落とした木々、厚く積もった落葉。ブナ林、また桧の森、アセビの群生地。行く手を遮る大岩。坂を下って息を弾ませて急登すると辿りついた笙ノ岩山。落葉した樹木に囲まれた山頂、三角点がある。しばしの休憩、軽食を摂る。笙ノ岩山は蕎麦粒山までの中間点だが、ここからは緩やかな尾根歩きとなる。塩地ノ頭、松岩ノ頭を越える。松の木の間から川苔山や本仁田山を、ブナの大木越しに三ツドッケ(天目山)を見る。ドッケとは突起のこと。
鳥屋戸尾根をはたして迷わずに登れるだろうか、とは杞憂にすぎない。道標が無くともトレイルがある、気まぐれに現れるテープマーカーがある。踏み跡が消えたら尾根を外さなければいい。二俣に出る。右の植林を避けて左を上る。これが正解。道幅は広くなる。右手は桧林、左手はスズタケの坂道。スズカケの唄を歌いながら上ると水源林道と交わる十字路に出る。そこに初めての道標がある。これから先は道標が適度に配された一般道。最後のひとふんばり、蕎麦粒山に上る。
蕎麦粒山山頂 | 一杯水避難小屋 |
誰にも会わない山。露岩に腰を下して2回目の昼食を摂る。幅広い防火帯を見下ろすその先は日向沢ノ峰、川苔山。北側から白い雲の塊が川苔山をゆっくりと覆ってゆく。冷たい風が下山を促す。日向沢ノ峰に背を向けてミズナラの急坂を下る。アップダウンの少ない尾根道。落葉の絨毯を蹴散らして歩く稜線の巻き道、稜線に出れば樹間から覗く奥多摩の山、奥武蔵の山。仙元峠を巻いて一杯水の水場を通過する。淡い陽が降り注ぐ一杯水避難小屋。独り佇む静かな山。
カサコソと音が聞こえる。リスが樹から降りて素早く茂みに消える。下山はヨコスズ尾根のブナ林から始まる。黄葉の賑わいも今はなく寒々とした樹林。奥多摩では数少ないブナ林を抜けて滝入ノ峰を大きく巻く。登山道の山側はミズナラ林、谷川は桧林。坦々と下りてきた山道は、植林に入るといっきに高度を下げるジグザグの急坂となる。氷川鉱山を過ぎると視界が開け、東日原の集落を一望する。まさにその時、帰りのバスを眼下に見る。茫然としてバスを見送る山旅の終わり。
晴 日帰り 単独行 歩行距離=13.5km 歩行時間=6時間5分
JR奥多摩駅8:10⇒(西東京バス)⇒8:23川乗橋
川乗橋8:25→10:20笙ノ岩山10:35→12:00蕎麦粒山12:10→12:30仙元峠→13:15一杯水避難小屋13:25→15:05東日原
東日原16:25⇒(西東京バス)⇒16:53JR奥多摩駅