三ノ塔3(さんのとう)  

160 2008/1/25(金) 三ノ塔 1,205m → 塔ノ岳 1,491 日本100名山




山行日和とは今日のような天気を言うのだろう。冬の空は青く、遠望がきく澄んだ空気、微風。だが山々は雪で覆われて、格別に寒い。月曜日は大寒だし、一昨日には初雪が舞い、昨日は寒風が吹き荒れた。さて、山の雪景色を見ようと、久々の丹沢表尾根を縦走する。ウェブでは、ヤビツ峠への神奈中バスが降雪により運休。時間はかかるが、大倉から三ノ塔尾根を登ろう。元より覚悟の上とはいえ、雪に足をとられて疲労困憊、8時間もの山歩きを強いられた一日だった。


物好き、いや山好きは居るものである。バスには十数人もの登山客が乗る。大倉に着くと、僕を除いて全員が大倉尾根へ登って行く。思いきってジャケットとフリースを脱ぎ、スキー帽を被って耳を覆い、スパッツを履く。いざひとり旅。水無川に架かる豪勢な風の吊橋を渡ると、立て札がある。ギョッ、マムシに注意。牛首・三ノ塔の道標に従って、杉林の林道を上る。歩きはじめて20分、三ノ塔、登山道の標識。ここから杉と広葉樹の落葉と霜柱を踏んで、暗い植林の山道に入る。


三ノ塔から眺める大倉尾根と右端に塔ノ岳


送電線の鉄塔を過ぎると林道に飛び出す。万人愛林緑風万里と彫られた石塔がある。折しも、駐車した軽トラックからハンターが下りてきた。林道から下が猟区で鹿を撃つという。また、静まり返った針葉樹林を登る。潅木林に出くわすと眺望が得られる。右下に秦野の市街地、光る湘南の海、左は大倉尾根。途中にテーブルとベンチの休憩所がある。標高900m、山は雪の世界に変わる。最後には雪深い急斜面、息を切らして上る。ヒバの茂みを通り抜けて登頂、三ノ塔。


雪の積もった山頂広場はまばゆいばかり。緑色の屋根をした休憩舎、数脚のベンチ。塔ノ岳へ4kmの道標。三ノ塔は表尾根随一の景観を誇る。烏尾山から塔ノ岳までの縦走路が一望できる。真っ白な富士山。箱根の山、愛鷹山は勿論のこと、南アルプスや天城山まで見える。振り返ればどっしりと大山。ちょっと長居をし過ぎた三ノ塔から眼下の烏尾山に向かう。ここから難所が始まる。凡そ150m降って80mを上り返すからではない。アップダウンが激しいからでもない。


手前の尾根を右下から左上に上って烏尾山
烏尾山からの遠望
更に右上に斜上して新大日ノ頭、中央奥が塔ノ岳


表尾根に積もった雪はさらさらとして雪質がいい。踏み込むと膝まで足がもぐる。歩きにくい。だから前に歩いた人の足型どおりに歩く。これが意外に疲れる。雪はガレ場を消してくれるから下り坂は楽。踵から滑ればいい。滑落も転倒もすることはない。鞍部から烏尾山の上りにかかる。掘割のようにえぐれた山道の両側の笹が、雪の重みでお辞儀して通路を塞いでいる。這うように頭を下げて笹の下をくぐり抜けると、笹の枝葉から雪片やごみが降ってくる。泣きの笹トンネル。


三角屋根の山荘が建つ烏尾山。ザックをベンチに投げ出して腰を下ろす。大きな三ノ塔と大山を見上げる。疲れた。元気を奮い起こして行者ヶ岳を越え、数ヶ所の鎖場を下降する。手が吸い付くような冷たい鉄鎖。雪庇が張り出すヤセ尾根。氷の岩場。新大日ノ頭までには何本かのエスケープルートがある。烏尾尾根、書策新道、長尾尾根には踏み跡がない。政次郎尾根だけが何人かの足跡がある。だが雪の吹き溜まりに踏み込んだらいやだ。塔ノ岳から下山するほかはない。


塔ノ岳直下から見上げる山頂 尊仏山荘


廃屋の書策小屋を覗き、崩れかかった新大日の茶店前でひと休み。行者ヶ岳から新大日ノ頭までに3人の登山者と擦れ違う。皆、僕と同じバスで大倉に降りて、塔ノ岳からもう降りてきた人達。すると後ろから上ってきた人が追い越してゆく。9時に蓑毛を発ったという。なんたる健脚。己の足の遅さは不甲斐ないが、山は自分のペースでしか歩けない。木ノ又大日からヤセ尾根を過ぎる。すぐ上に塔ノ岳がある。さすがに嬉しい。ジグザグに急登しての登頂。予定より1時間遅れ。


山頂には、もう誰も居ないと思ったら、3組の夫婦とふたりの登山者が休んでいる。さすがに大衆登山の山。西の空は白ずんで、冠雪の富士山の写真はうまく撮れない。さあ下山のとき。大倉尾根は雪がよく踏まれて快調に降る。花立下は雪解けの長い木段。難所その2が小草平。いつもなら快適にとばせる日陰の山道に残雪が凍っている。滑って転んで立ち上がり、3歩歩いてまた転ぶ。透き通った箇所は避けて路傍の白い雪の上をよたよたと歩く。雪を見に行き泣きを見た。


快晴 日帰り 単独行 歩行距離=15.2km 歩行時間=8時間

小田急、渋沢駅645⇒(神奈中バス)⇒700大倉
大倉710955三ノ塔10151100烏尾山11151145行者ヶ岳11501245新大日ノ頭13001355塔ノ岳14051415金冷ノ頭→1425花立→1500小草平→1520駒止茶屋→1615大倉
大倉1622⇒(神奈中バス)⇒1640小田急、渋沢駅