#147 2007/4/26(木) 菰釣山 1,379m
横浜に住む僕にとって、丹沢の山といえばホームグランドの筈だが、おいそれと登れない山がある。焼山、鳥ノ胸山、菰釣山。これらは道志みちから登る山。近くて遠い山。なにしろアクセスが悪い。道志みちを走るバスは不採算路線を解消するため、分社化や路線廃止を余儀なくされ、今ではマイカーかタクシーに頼るほかはない。嬉しいじゃないか、菰釣山へとひと声かけたら、O君がマイカーで行こうとの返事。ほいほいと乗って居眠りするうちに月夜野から道志へ連れて行ってくれる。
当初の山行プランは、山伏峠に車を置き、菰釣山からいちばん短いアプローチの御正橋までバスに乗る。菰釣山からは縦走して山伏峠に戻ってくる。ところが峠に着いてあて外れ。ホテル跡の敷地は立ち入り禁止となり、数台の駐車スペースしかない。登山口は山伏トンネルの反対側との小さな立て札。バス停の標識も撤去されている。仕方なくトンネルをくぐって移動すると、登り口はありそうだが、僅かの駐車スペースしかない。国道の路傍に長時間の駐車をするわけにはいかない。
君子でなくとも豹変してネクストプランを考える。道志の森キャンプ場からの周回登山しよう。一旦、下善の木に戻って三ヶ瀬川沿いの林道を進む。東沢と西沢の合流点まで来ると、この先落石のため一般車乗り入れ禁止の看板がある。駐車して周回するには丁度いい場所。車から降り、思い切り伸びをして、桧の森から新緑の西沢林道を歩き出す。増水した沢の流れは激しい。春を謳う鳥のさえずり。林道を横切る小川。うず高く積った落石。山梨県の地に神奈川県水源の森との標識が立つ。
菰釣避難小屋 | 菰釣山山頂 |
ブナ沢を渡ると車止めゲートがある。右手に登り口。菰釣山へ1時間25分との道標がある。先ず30段の梯子を上る。長い草の葉を分けて桧林を進むと潅木帯。これから先、全山ブナが主体の山。芽吹きの合図を待ち構えているかのように固く閉じた葉。緑の苔が木の幹を、岩を、倒木を覆う。苔は豊富な水源の山の証しだという。歩きやすい湿った黒土、ジグザグ道の上り。気が付くと山道が消え、藪に踏み込んで身動きがとれない。後ろを歩くO君に戻るよう声を掛け、踏み跡を探してもらう。
涸沢を上りつめると尾根筋に飛び出す。ブナ沢乗越。この稜線は県境尾根、そして東海自然歩道。だから道標が完備しているし、危険箇所は少ない筈。左は城ガ尾峠、右は菰釣山を示す山梨県道志村の道標が立つ。熊笹に覆われた自然林の尾根筋をゆるやかに上ると菰釣避難小屋に着く。管理者は神奈川県山北町。テーブルベンチに座ってしばしの休憩。太陽は雲間に入り、西から冷たい風が吹き上げる。右手の道志の山や左手の西丹沢の山も霞んで見える。遠望は望むべくもない日。
菰釣山山頂より 中央奥の富士山は雲の中 | 城ガ尾山 |
笹の葉が揺れると若者が現れた。大群山、蛭ヶ岳を経て大倉まで歩くという。ざっと45km。まさに超人。喘いで急登して登頂、菰釣山。狭い山頂は中央にテーブルベンチ、北側に東海自然歩道の案内板、その隣にブナの巨木が生える。東側に自動気象観測装置と太陽電池による送信装置がある。車の中で垣間見た、あの冠雪の富士山も、その手前の山中湖すらも厚い雲の中。見えるのは、尾根続きのブナノ丸や樅ノ木沢ノ頭、道志みちを隔てた道志山塊の御正体山や今倉山等の山のみ。
戦国時代の雑兵には百姓が雇われたという。パートタイマーのはしり。出世頭は勿論秀吉。武田の雑兵が旗指物代わりに立てたのが菰の旗。それが山名の由来とか。かれこれ10時。早い昼飯を、あの菰釣避難小屋で摂ることにする。建替えられて間もない小屋は、香りがかぐわしい総桧造り、平屋。土間に10人は囲めるテーブル、奥は板の間。小屋が吹き飛ばされないよう、戸を開けたら閉めろとの注意書き。敷居は少し傾斜して、引き戸が自然に閉まることに気付いたO君、感心することしきり。
ブナ沢乗越を通り過ぎ、ブナ沢ノ頭を越える。ツゲの密集地からまたブナ林。中ノ丸からだらだら下ると、陽が射す草原は城ガ尾山。ここで最後の休憩。眠気を誘うような心地よさ。坂を下って城ガ尾峠。テーブルベンチと案内板がある。稜線に別れを告げて東沢を目指して降る。途中、二箇所の崩落地点を、頭の高さに張られたロープに縋って通過する。今日歩いたコースで唯一の要注意箇所。高度が低くなるにつれて、芽吹きから緑濃い林に変わってゆく。冬の山から春の里へ降りてゆく。
曇ときどき晴 日帰り 同行者=O君 歩行距離=10.4km 歩行時間=4時間5分
国道413号線(道志みち)、下善ノ木⇒道志の森キャンプ場
三ガ瀬、道志の森キャンプ場7:30→8:10ブナ沢登り口→8:45ブナ沢乗越→8:55菰釣避難小屋9:00→9:20菰釣山9:35→9:50菰釣避難小屋10:30→11:10中ノ丸11:15→11:40城ガ尾山11:50→12:15東沢登り口→12:50三ガ瀬、道志の森キャンプ場
道志の森キャンプ場⇒国道413号線、道の駅どうし