#143 2007/1/25(木) 高柄山 744m 山梨100名山
中央線が相模湖を過ぎると、左手に山の連なりが見えてくる。山域は前道志とも秋山山稜とも呼ばれる。いずれの山も標高1,000mに届かず、さしたる眺望が得られるわけでもない。それでも、「駅から登山」ができるし、静かな山歩きが人を惹きつける。人気のあるのは倉岳山や九鬼山など西部の山。東端にあるのが高柄山。直接登る山道はないので、峠を目指して、あるいは尾根伝いに上ることになる。尾根筋は起伏が多く、急登・急降下が激しいからタフな歩きを強いられるという。
朝日に光る川面、雲ひとつない青空。久々の好天。長い桂川橋を渡りながら右岸に円頂の山を見る。御前山。ひとつ目の道標に導かれて駒門の集落をすり抜ける。暗い杉の森の中に登山口。杉の落葉を踏みしめて、山道は直登から始まる。上るほどに自然林の岩稜に変わる。たかが標高441mと侮る勿れ。急登につぐ急登。再三、タイガーストライプのロープに掴って身体を引き上げる。やっと緩やかな稜線に上りつくと、ツゲの大木の下に石祠がある。ここは細長い山頂の一角。
北面の樹木が伐り払われたところが御前山山頂。稚拙な字で書かれた山頂標識、四等三角点、航空測量標識。眼下に、桂川に沿う長野原の市街を俯瞰する。山上まで躁音が聞こえる。中央線の列車のきしみ、中央道を走る自動車の排気音。その向こうは笹尾根の長い壁。いっときの休憩の後、雑木林を西に辿る。前方に、樹林の間から高柄山が見える。いくつもの峰が寄り添う大きな山体。ここから新矢ノ根峠まで、変化に富んだ歩きが始まる。まず、折角上った高度分だけ降る。
桂川橋から御前山を望む | 高柄山山頂 |
暗い植林帯で鶴鉱泉からの道を合流する。ボロボロと崩れる油断のならない急斜面。ジグザグに降って上り返し、ふたつの小峰を越える。この上り下りがきつい。最低鞍部はムジナ沢の源流。遡ってジグザグに上ると金網フェンスに突き当たる。先ほど垣間見たゴルフ場。フェンスに沿って上る長い上り坂。尾根筋に飛び出すと東屋がある。新矢ノ根峠。ゴルフ場が出来たために尾根伝いの山道が閉鎖されて、歩きにくい迂回路を通ってきたのだ。汗を拭いて束の間の休憩。
この季節の山歩きは楽しい。うるさい藪に煩わされることはないし、葉の落ちた樹林から遠望もできる。稜線の右は奥多摩、左は道志、丹沢。風もなく日が差し込む自然林。背丈の高い篠竹を分ける尾根の道。新緑の頃はさぞやと思わせるミズナラ林。長い直登に立ち止まり、喉を潤してほっと息をつぐ。やっと登ったピークは前峰。はるか先に双耳峰のような高柄山が聳えている。一歩、また一歩上って高度を稼ぐ。まず北峰へ、あとはゆるく下り、上り返して南峰へ。高柄山。
長野原市街と奥多摩の笹尾根 | 右から左へ、高柄山から大丸までの稜線 |
山頂には山梨100名山の標柱が広場中央に立つ。三等三角点、北を向く赤い屋根の祠。桧林の西斜面を除いて、山頂からは大きな眺望が得られる。北側には三頭山から生藤山、陣馬山へ続く笹尾根、南は大群山や桧洞丸などの西丹沢の山々。風もなく陽光が降り注ぎ、シャツ1枚で過ごせる陽気。誰も居ないので、これ幸いと2基の小さなベンチを占有して火をおこす。桧林から一組の夫婦、ついで同年輩の人がやってきた。それぞれ居場所を定めて食事の支度にとりかかる。
桧林の急坂を降りて尾根を歩く。大丸まで六つの小峰を越えるが、高柄山までの歩程をこなした今では苦にならない。四番目は、松の落葉が敷かれた赤松のコブ。まだら模様に雪が残る最後の急登を上ると積雪の林道に出る。地図になく、ガイドにも触れてない道。四方津駅へ行くなら、この林道を辿ればいい。道標も紛らわしい。林道を横切って桧の森に丁字路がある。ここが大丸(山)で新大地峠。矢平山へ行くなら左方へ。5分の歩きで大地峠とあるのは旧大地峠のことである。
四方津駅への下山路に、歩いたコースを見通せる地点がある。高柄山から大丸まで連なる大小の峰。今更ながら激しいアップダウンに驚く。御座敷の松についての案内板がある。<かつてこの場所に立派な松があり、戦国の雄、武田信玄が金鉱開発のためこの地を訪れて休んだところ> 樹相は桧林から松林、ミズナラ林と変わる。厚く積った落葉を蹴散らして下る尾根の道、小峰の巻き道、堀割状の道。気を付けよう、落葉の下にひそむ石。もうじき川合の里、日だまり登山も終わる。
快晴 日帰り 同行者=O君 歩行距離=10.9km 歩行時間=4時間25分
JR上野原駅8:50→9:15御前山登山口→9:45鶴島御前山9:55→10:50新矢ノ根峠10:55→11:40高柄山12:35→13:10新大地峠(大丸)13:20→14:15川合→14:35JR四方津駅