思親山ししんざん

106 2005/4/26(火) 思親山 1,031 山梨100名山




K君の定年退職を祝って箱四会、熱海の宴。一夜明けると曇天、眺める初島は霧の中。ひとり抜け出しての山行。富士川に沿って身延線は北上する。内船駅に着く頃には天気も好転。思親山。日蓮上人が身延山で山ごもり中、山頂越しに伊豆の両親を偲んだという。これが山名の由来。富岡集落の茶畑は見晴しの坂道。前方に緑濃い山の壁が横たわる。あそこまで登るのですか。


民家と茶畑が尽きると桧の森に入る。「火の用心」と「熊の出没に注意」の看板がある。欝蒼とした桧の森、退屈な林道歩き。路傍の花に慰められ、鳥の鳴声に元気づけられる。いろいろな鳥がいる。変り種は低いホーホーと啼く鳥。まるでビール瓶を吹いたときの音のよう。木の幹を嘴でつつく鳥。かれんな薄紫のスミレ。風に揺れるヤマブキ。花びらが舞う山桜。峠はまだですか。


林道を2時間かけて6km歩くと、標高差800mも上る。佐野峠。整備された峠。広い駐車場、新装のトイレもある。瀟洒なあずまやに荷物を下ろして展望に見入る。佐野川を挟んで天子山塊の山々。毛無山、長者ヶ岳、天子ヶ岳。いずれも頂稜が雲の中。眼をこらしても富士山は見えない。さて、この峠から思親山に登り、八木沢峠に下りるまでは東海自然歩道。南部町の案内板がある。


集落を抜けると西方に富士川を挟んで篠井山、七面山等の山並みが見える


<自然体験をとおして森林に親しめるよう、地域の自然や、歴史・文化的な特性を生かした15の森林を「森林文化の森」として指定しました。富士山と駿河湾の眺望にすぐれた「思親山の森」もその一つです。「思親山の森」は、山梨百名山でもある思親山を中心とした県内有数のスギ・ヒノキの人口造林地で佐野優良材生産団地に指定され、東海自然歩道も整備されています>


山が目醒めて芽吹きの時。木々が美しさを装う季節。あれまあ、ゆるやかな尾根道に、ご丁寧にも丸木の木段。東海自然歩道だからといって整備した道なのに、歩き難いこと甚だしい。下りだったら足を痛めるところ。やがて左は桧林、右は潅木。おや、カタクリの群生。恥らって下向きに咲く紫色の花。白い花を付けたモミジイチゴ。3つ目のコブまでくると、ガスが地を這って忍び寄る。


佐野峠から上る思親山への稜線 思親山山頂


霧が東斜面から登って、西斜面に滑り降りる山頂。薄い雲を通して差し込む陽射し。視界30m。当然のことながら、展望なんか望むべくもない。天子山塊に富士山、駿河湾。それに駿河の山に南アルプスの展望地なのに。2等三角点、道標、山梨百名山の標柱。ベンチにテーブル。雀のように鳴いて素早い動きの小鳥。鮮やかに咲くミツバツツジ、ひっそりと散るマメザクラ。


なだらかな尾根道を下りはじめると、雨が降りだした。内船へ分岐する道標がある。地図にない分岐。霧の尾根道を八木沢峠へ下山するのを止めて、エスケープしちゃおう。道標に注意書きがある。<悪路につき、一般の方は東海自然歩道にお回りください> 構うものかと分岐を辿ると、スギの葉と枯木が敷きつめられた絨毯のルンルン道。最後は崩壊地を慎重に渡って林道へ。


思い起こせば、誰ひとり行き会わなかった山。往きも帰りも麓は快晴なのに、肝心の山は霧と雨。期待した展望も儚く潰えた山。純歩行時間のうち、何と林道歩きの時間が70%。それでも、いいの。適度な筋肉痛が心地よく、山里の新緑、山上の芽吹きに十分癒されたから。だが、早過ぎたゴール。つぎの身延線は1時間40分後。駿河の山を、ぼんやり眺める陽だまりの内船駅。


晴一時小雨 日帰り 単独行 歩行距離=14.7km 歩行時間=3時間55分

JR内船駅9301015水呑沢10301125佐野峠11351210思親山12251245内船・八木沢峠分岐→1300三石山林道→1330水呑沢13351410JR内船駅