第六章 パフェ食い倒れ旅行殺人事件


その男、澁海は頭を抱えていた。
刑事になって5年、ここまでの難事件は初めてだった。
ここはとあるホテルの一室。
そこで一人の女性が殺されていた。
彼女の名前は海菜和美、二十歳。
ある旅行会社が企画した
「パフェ食い倒れ旅行」の最中の事件であった。
「どうだ澁海」
ふと俺は後ろから声をかけられた。
「・・・ボス」
その声の主は、俺を指揮するボスだった。
「駄目ですね、あまりにも証拠が無さ過ぎます。
かなり綿密な計画が立てられていたようです」
そう、この事件はあまりにも証拠が無さすぎた。
指紋、遺留品、目撃者・・・・
あらゆる物が不足していた。
このままでは、この事件が迷宮入りするのは
時間の問題だった。
このツアーの参加者の中に犯人がいるのは分かっているのだが・・・
「ふ、そんな難事件だからこそ、お前をあてたんだがな」
ボスがそう俺に言った。
「そのためにパフェも用意してある」
「!!」
パフェという言葉に俺は反応を示した。
「やってくれるか?」
「・・・・・やりましょう。彼女が殺され損にならないように。
そして、この事件によってパフェを汚した犯人を捕まえるためにも・・・!!」
俺はついに決意した。
そう、俺は犯人に対して強い怒りを感じていた。
殺人を犯したということもさる事ながら、それ以上に、
パフェを食べるという神聖なこの旅行中に、こんな事件を起こしたことが許せなかった。
「ボス、パフェをここに」
「うむ」
ボスの合図ともに、パフェが俺の前に運ばれてきた。
それは、神の黄金律を満たした見事なパフェだった。
「こ、こいつは・・・・」
そのあまりの素晴らしさに、俺はうめきにも似た声を上げた。
「摩耶の奴が、お前のためにと作ったものだ」
「摩耶さんが?」
摩耶さんとはボスの娘さんである。
美しく聡明な女性で、おしとやかで気立てもよく、
俺の事をよく気にかけてくれていた。
「お前達もそろそろまとまったらどうだ?
家内が早くに死んで、あれには負担をかけてばかりだ。
そうしてくれりゃ、俺も安心できるんだが・・・」
「ボス」
「ああ、すまん。仕事場でこの話はしない約束だったな。
しかし、あれも待ってるぞ、お前の一言を・・・」
「それも・・・分かっています」
(この事件が解決したら・・・・)
俺は心の中で、そう付け加えた。
「それでは、始めます」
「ああ」
俺の一言で、ボスも父親の顔から刑事の顔にもどった。
俺は、パフェの横に置かれたスプーンに手を伸ばす。
「摩耶さん、使わせてもらいます」
自分の無事を祈る女性に感謝し、俺はパフェをスプーンにすくう。
そして・・・・・
それを口に含んだ。
「ん!!」
俺の身体に、なんともいえない充実感が広がる。
「うま〜い!!」
その俺の言葉と共に、俺の瞳に新たな光が宿った。
先ほどまでダークブラウンだった瞳が、
透き通る様なブルーに変化する。
俺は、神の食であるパフェを食べることによって、
IQ300を超える「スーパーパフェ澁海ん」になるのだ。
同時に力も1.5倍(当社比)。
「どうだ、何とかなりそうか?」
「ええ、ツアー参加者を全て一部屋へ集めてください。
それと、ここで食べる予定だったパフェを人数分準備してください」
「うむ、分かった」
ボスの指示により、他の刑事達が散っていく。
待ってろよ、犯人。
貴様は俺が必ず捕まえてやる!!
パフェの名の元に!!

一時間後、食事処「びっくりドンキー」に
今回のツアー参加者79人が集められた。
このツアーは、パフェに関連するだけあって
かなりの人気コースである。
応募総数1万人の中から、厳選された80人が
ツアーに参加出来たのである。
もっとも、一人がその命を失い今では79人しかいないのだが・・・・
「みなさん、聞いてください!!」
ツアーコーディネーターである五十嵐さんが、
突然の招集に混乱するツアー客に説明を行っている。
実はまだ他のツアー客には、殺人事件の事実は伝えられていなかった。
今も、説明では新作のパフェの試食会ということになっている。
下手な混乱を避けるのと、マスコミへ情報が流れないようにするためだ。
もちろん我々刑事も、ホテルの店員の格好をしている。
「本当にこれで大丈夫なのか?」
料理長の姿をしたボスが、後ろから俺に囁く。
「大丈夫、犯人は自ら口をわりますよ」
それに対して俺は自信たっぷりにそう答えた。
「それではお願いします」
ツアー客の混乱が収まった所を見計らって、俺は五十嵐さんに声をかけた。
「一応五十嵐さんのお願いします」
「あ、はあ・・・・」
そして、客達の前にパフェが配られた。
それはびっくりドンキー名物、チョコパフェである。
先ほどまで騒いでいた客たちも、パフェを前にするとすぐにきらきらと目をかがやかせ、
夢中でパフェを食べはじめる。
6分01秒後。
マナーどうり(第2章参照)全ての人間がパフェを食べ終わった。
その途端・・・・
「すみません!!私がやりました!!」
涙声になりながら、一人の男性が声をあげた。
なんとそれは、ツアーコーディネーターの五十嵐さんであった。
「やっぱりパフェの前では嘘はつけません!!」
「やはり、パフェの力は偉大だったか・・・・」
俺は最後にこう、呟いた・・・・

END


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