『万 葉 集』
★ 下線の引いて、<>内にカタカナを記したものは歴史的仮名遣いを現代仮名遣いに直したものです。
★ オレンジ色でリンクしてある語句は、単語説明がでます。
【本文】
春過ぎて夏来たるらし白妙の衣乾したり天の香具山 (持統天皇 巻一−二八)
【現代語訳】
春も終わり夏がやって来たらしい。純白の衣を干している天の香具山よ。
【本文】
東の野に炎の立つ見えてかへ<エ>り見すれば月傾きぬ (柿本人麻呂 巻一−四八)
【現代語訳】
東方の野の果てに輝く光がさしそめている。振り返ってみると西の空に低く傾きかけた月が見えている。
【本文】
天地の 分かれし時ゆ 神さびて 高く貴き 駿河なる 布土の高嶺を 天の原 振り放け見れば 渡る日の 影も隠らひ<イ> 照る月の 光も見えず 白雲も い行きはばかり 時じくそ 雪は降りける 語り継ぎ 言ひ<イ>継ぎ行かむ<ン> 不尽の高嶺は (山部赤人 巻三−三一七)
【現代語訳】
天と地がはじめて分かれた時からずっと、神々しく高く尊い駿河の富士の高嶺を、天遠くふり仰いでみると、空を渡る太陽の光も頂きに隠れ、照る月の光も遮られ、白雲も流れなずんで、いつも雪が降っている。これからも語り継ぎ、言い継いでいこう、富士の高値は。
【本文】
(反歌)
田児の浦ゆうち出でて見れは真白にそ不尽の高嶺に雪は降りける (山部赤人 巻三−三一八)
【現代語訳】
田児の浦を通って出て見ると真っ白に富士の高嶺に雪が降っていたことだ。
【本文】
憶良らは今は罷らむ<ン>子泣くらむ<ン>そを負ふ<ウ>母も吾を待つらむ<ン>そ
(山上憶良 巻三−三三七)
【現代語訳】
憶良はもう退出しましょう。子供が泣いているでしょうし、その子の母親も私を待っているでしょうから。
【本文】
君待つと吾が恋ひ<イ>を<オ>れば我が屋戸のすだれ動かし秋の風吹く (額田王 巻四−四八八)
【現代語訳】
君(あなた)を待って恋しく思っていると、我が家のすだれを動かして秋風が音を立てているよ。
【本文】
多摩川にさらす手作りさらさらに何そこの児のここだ愛しき (東歌 巻十四−三三七三)
【現代語訳】
多摩川にさらす手作りの布のように、さらさらにどうしてこの子がこんなにいとしいのであろうか。
【本文】
韓衣裾に取りつき泣く子らを置きてそ来ぬや母なしにして (防人歌 巻二十−四四〇一)
【現代語訳】
韓衣の裾に取りすがって泣く子を残して来てしまったなぁ〜、母もいないのに。
【本文】
新しき年の始めの初春の今日降る雪のいや重け吉事 (大伴家持 巻二十−四五一六)
【現代語訳】
新しい年のはじめの新春の今日を降りしきる雪のように、いっそう重なれ吉事よ。